入園、進級直後の子どもの不安や戸惑いといった気持ちにどのように寄り添えばいいのでしょうか
入園や進級直後しばらくは、保育が混乱して落ち着かない日々が続きます。
しかし、この混乱の原因は、慣れないこと、わからないことだらけの新しい環境に対する子どもの不安と戸惑いなので、それが解消されれば、しだいに子どもは落ち着き、混乱も減っていきます。
保育者にとっても大変な時期ですが、まずは、大好きな保護者がそばにいない心細さや、初めての場でたくさんの知らない人に囲まれ、不安や戸惑いでいっぱいになっている子どもの気持ちを想像してみましょう。
そのうえで、子どもの不安な気持ちを受け止め、共感しながら、一日も早く、子どもたちが「園って楽しい!と思えるよう援助していくことが大切です。
子どもの不安を受け止め、安心して園生活が送れるよう支援ができるといいですね。
0歳〜3歳児の入園、進級直後の生活の目標
環境に慣れ、安心してすごせるようになることが目標です。スキンシップや声かけを繰り返し、一人ひとりと着実に関係を築いていきましょう。
4歳児の入園、進級直後の生活の目標
いままでの園生活で培ってきた土台があることが強みの4歳児。環境の変化から生じる戸惑いを解消しながら、一人ひとりの生活を確立していきましょう。
5歳児の入園、進級直後の生活の目標
年長児らしい意欲的な一年をすごす土台を築くため、3歳児のお手伝いをするなど、役に立ってうれしいと思える経験を重ねましょう。
例:4歳児から5歳児になったときに、仲良しの友だちとクラスが離れてしまって・・・
一番の仲良しだった友だちとクラスが離れてしまったAちゃん。園に来ても元気がなく、しだいに登園をしぶるようになってしまいました・・・という悩み
気の合う友だちといると楽しいということがわかるようになる年齢なので、4歳児から5歳児への進級当初は友だちと離れたことで一時的に気落ちする子も少なからずいるものです。他クラスと自由に行き来ができる環境をつくったり、「滑り台で待ち合わせてしてみたら楽しそう!」などと、離れているからこその楽しみ方を提案してみるのもよいでしょう。
また、Aちゃんの登園しぶりの原因が仲良しの友だちと離れてしまったことだけとは限らず、むしろ、新しいクラスに自分の居場所がないといった漠然とした不安が原因になっているのかもしれません。好きな友だち、好きな場所、好きなあそびなど、Aちゃんが心地よい場所を新しいクラスでみつけられるよう、仲立ちとなって援助していきましょう。
保育園にいきたくないとこぼす子には前日に「明日は○○をするよ」などと伝えると、明日を楽しみにしてくる子もいますし、5歳児は友だちとの関わりが楽しい時期でもあるので、友だち関係の仲立ちをすることで、園生活を楽しみにできるように工夫するといいですね。
友だちと離れたことを悲しいことと捉えずに、離れているからこその楽しみ方を提案できるといいですね。
3歳児から4歳児
前年度の担任をとても慕っているBくんは、「○○先生がいい!」ということもあり、なかなか新担任の保育者に心を開いてくれません・・・という悩み
一年間、生活をともにしてきた前担任に思い入れがあるのは当然のことで、それだけよい関係が築けていたのは喜ばしいことです。なかなか自分に心を開いてくれないと、気持ちが沈んでしまいがちですが、信頼関係を築くには時間も必要です。信頼が芽生えれば、必ずBくんの気持ちも新しい担任に向いてくるので、焦らず、辛抱づよく接していきましょう。
基本はつねに笑顔で「Bくん、おはよう」「Bくん、何をしているの」と明るく声をかけること。「大好きだよ」のメッセージを、ことばやスキンシップを通じでたくさん伝えましょう。
それでもなかなか距離が縮まらないときは、ふたりだけの秘密をつくってみましょう。「先生とBくんで見つけたあおむし、ふたりでこっそり育ててみよう」「ふたりで引き出しにしまった○○を見に行こう」。そんな秘密が、関係づくりに役立つこともあります。
前担任に相談することもよいことですが、それは子どもの前ではしないようにし、あくまでも新しいクラスのことは新担任が責任をもって取り組みましょう。特に、発達障害のある子だと前担任にこだわることもあるかもしれませんが、こだわっているときに前担任が出てきてしまうと、それが習慣になってしまい、その子のためになりません。
3歳児から4歳児
園生活には慣れているはずなのに、いままでできていたことまで「先生、できない」と言ったり、入園したたでよく泣いている子につられていっしょに泣き出したりする子も。クラス全体が落ち着きません。
進級直前は、「もうすぐ年中さん」と張り切って、ちょっと背伸びをしてみる子どもたちですが、いざ進級して4月になると、保育者や教室、クラスの顔ぶれ、すべてが新しいことばかり。勝手の違いに戸惑いが募ると、子どもは背伸びどころか、赤ちゃん返りのようにとたんに甘えだすことがあります。「できなーいか」と言うのは、保育者の愛情を確かめる子どもなりの手段であると考えることもできます。いままでできていたことが、とたんにできなくなる、しなくなるというのも、環境の変化を前にした子どもの戸惑いの表れと受け止め、しばらくはそれにつき合ってあげましょう。
しかし、「できないから、先生がやって」を容認しすぎては、クラスの運営に支障をきたしてしまうでしょう。手を貸してあげるときと、そうでないときのメリハリをつけ、子どものようすを見ながら、自分で取り組むよう、自立を促すことも大切です。
また、新しく入園してきた子が泣いているのにつられて、泣き出してしまう場合には、つられて泣き出す前に。あそびに誘ったり、おもちゃを渡したりして気を紛らわせることで、泣きの連鎖を防ぐこともできるかもしれません。
入園編
3歳児
毎朝、泣きながら登園し、保護者から離れるときはさらに大泣きするCくん。部屋に入ったあとも、気持ちを切り替えられずに、ずっとシクシク泣いています・・・という悩み
Cくんにとって、泣くことは不安や寂しい気持ちを表現する手段。ですから、その気持ちを考えずに「もう泣かないの!」などと言って、なく行為を否定するのはよくありません。Cくんの不安な気持ちを先生はわかっているよ、というメッセージを込めて、「ママとバイバイするのは、悲しいね」と、Cくんの気持ちをことばに置き換えながら、「ママはお仕事が終わったら、迎えに来てくれるよ」などと、安心できることばをかけていきましょう。
なかなか泣き止まないと気になりますが、Cくんの気が晴れるまで泣かせておいてもよいでしょう。ただ、ほうっておくのではなく、目配りと心配りをしながらCくんの気持ちに寄り添うことが大切です。そして、タイミングをみて、「折り紙であそぼう」「砂場に行こう」などと具体的なものを提示して、気持ちを切り替えるきっかけを与えていきましょう。
入園の時期は、クラスのなかも混乱しがちです。しかし、それでもいずれは落ち着くので、そのときだけでなく、長い目でみるような余裕もあるといいですね。卒園するまで泣いていたり、成長しない子はいません。そう思って大きくかまえ、子どもに「だいじょうぶよ」と安心感を与えていくと、いつのまにか乗りきれることもあるでしょう。
また、保育者の声にまだ慣れていない子もいるでしょう。積極的に声をかけたり、目が合えばほほえんだり、少しでも会話をして少しずつ信頼関係をつくっていきましょう。子どもは柔軟性があるので、誠実に対応することで、クラスに馴染んでいきます。
4歳児
家ではよくしゃべって活発だというDちゃんですが、園では部屋の隅でじっとみんなのことを見ているだけで、あそびや活動に入ろうとしません・・・という悩み
きっとDちゃんは繊細な子で、ここは何をする場所なのだろう、と慎重に周囲を観察しているのかもしれませんね。ひとりで部屋の隅にいる姿を見ると、遊んでいないのかと心配になりますが、本人は見ているだけで楽しんでいることも多々あります。あそびに踏み込むまでの助走時間は個々で違うもの。「あそばないと、つまらないよ」など、負担になることばは避け、無理強いはせず、Dちゃんのペースに合わせることも大切です。
誘うときは、「おいで」と言うだけでなく、保育者が迎えに行って手をつなぎ、行動をともにしてみましょう。保育者が他の子と接する姿もみられるので、園や保育者を知り、緊張を解くきっかけにもなります。いっしょにいられないときは、目配りをして、「先生はみているよ」というサインをこまめに送るとよいでしょう。
活動の輪に入らず、外からみているだけの子に「あそばないと、つまらないよ」「○○ちゃんも来てくれないと、先生、寂しいな」といったことばは、かえってその子の負担になってしまいそうなので、言わないよう気をつけています。
3歳児
家ではトイレでおしっこができ、失敗することもないEくんですが、園ではほぼ毎日のようにおもらしをしてしまいます・・・という悩み
Eくんが園で失敗してしまうのは、まだ新しい環境に慣れていないせいだと考えられます。慣れない園のトイレに行くことに戸惑いがあるのかもしれないし、たくさんの友だちがいるなかで「おしっこ」と保育者に声をかけるタイミングをみつけられないでいるのかもしれません。Eくん自身も、家でできることが園でできないことにショックを感じているはず。失敗を責めず、さらりと「出ちゃったね。今度は先生に、おしっこって言ってね。いっしょにトイレに行こうね」と優しく対応しましょう。家でできるのですから、慣れれば必ず園でもできるようになります。園と家は別と考え、あせらず、おおらかに対応していきましょう。
おもらしをしても決してしからないことも大切です。不安や戸惑いから失敗してしまうことも多いので、まずはその気持ちを理解するするよう心がけましょう。トイレにいく時間をこまめに作ったり、失敗しないよう早めにトイレに誘ったりするようにするのも、ひとつの手でしょう。
環境が変わっても、あそびでつながる安心感を育む
年度末は近くなると、保育者は次年度の担任決めや異動のことなどで、気持ちが落ち着かなくなりがちです。でも、子どもにとっては、園で同じように暮らしていくわけですから、一つ大きくなっていれしいという気持ちは大事にしたいですね。
3月と4月の間に区切りがあるというのは、大人が決めたことで、子どもにとっては生活そのものなのです。この時期はよく飛び込んで、このあそびは大好き、このあそびは面白くってしょうがないなど、楽しいあそびを毎日満喫できるようにしましょう。そうすると、進級して担任や保育室が変わっても、大好きな遊びでつながっていることで、子どもたちは安心していきます。
そして、保育者も4月以降、だんだんと自分のカラーで新しいクラスでの保育を考えることができると思います。
大きくなると、年長児など上のクラスへの憧れが芽生えます。飼育当番や掃除当番を引き継ぐなどして、その憧れをふくらませつつ、でも無理はしないことを心がけましょう。また、大きなイベントを組まなくても、子どもたちは異年齢で一緒にあそんだり、クッキーなどおやつをいっしょに作ったりする中で、卒園式でうたう歌をすっかり覚えたりして、自分たちも大きくなるのだという期待感や喜びをもつことができることでしょう。
特に小さな子どもたちには、今の友だちや保育者との関係は大事に楽しんで、穏やかに落ち着いて暮らせるというつなぎ方を、3ヶ月の間に、丁寧に遊びながら行っていくことです。
そして、なんにでも興味をもち、やってみようとする子どもの気持ちと、「自分で!」「できた」という誇らしげな笑顔と自信を大切にして、今の担任がどれだけ新しい担任に引き継げるようにするかが大事なポイントになります。
分園から移る場合の配慮
また、都市部では立地の関係で、乳児と幼児の保育場所が分かれている園が増えてきました。分園から本園へ移る場合、新たな場所にすこしずつなじむように、本園の同年齢児と、早めの「交流保育」をはじめてみましょう。
秋の初めから、月2回くらい、本園に行って、見学することから始め、同じ年齢の子どもたちと一緒にあそんだり、食事をしたり、半日ほどいっしょに生活でします。
子どもたちは最初、やや緊張気味ですが、少しずつなじんで、やがて夢中になってあそびます。ビルやマンションの1室、学校の空き教室などで生活している分園の子どもたちにとっては、園庭には砂場やいろいろな遊具があり、とてもに魅力的なのでしょう。
本園での新しい出会いがスムーズにスタートするためにも、子どもたちの「楽しい空間」が広がっていくためにも、早めの交流保育は効果的でしょう。