保育に取り入れることができそうな簡単なトレーニングを考えてみましょう
発達障害の特性として、体の動きのぎこちなさや手先の不器用さを抱える子に対して、保育者ができる支援と適切な関わり方について、考えていきましょう。
「不器用さ」は、発達障害の特性として表れていることもあります。
園でたくさんの子どもと接していると、ブランコがうまくこげなかったり、ボールあそびが苦手ふぁったりする子、また、はさみで紙がうまく切れなかったり、ボタンが留められなかったりする子など、全身を使った運動、あるいは手先の作業が苦手な子が目につくこともあるでしょう。
通常であれば、何度も練習したり、保育者が「やり方」を教えることで、それなりにできるようになるものですが、なかには、何度練習をしても、何度教えてもうまくできないという子もいます。
また、そういった子は、歩き方や走り方がぎくしゃくしているなど、身のこなし方が全体的にぎこちなかったり、平らな場所で転んだりすることも少なくありません。
このような場合、その子の「動きのぎこちなさ」や「手先の不器用さ」は、発達障害の特性として表れていることも考えられます。
自閉症やアスペルガー障害など、診断名がついている子の場合は、その不器用さが障害の一端であると周囲にもわかりやすいのですが、発達障害であるとは思われていない子が、このような「努力しても軽減が難しい不器用さ」を抱えていることもあります。
通常の指導でその不器用さを軽減することが非常に難しい場合は、発達障害の可能性も視野に入れて対応すると、うまくいく場合もあります。
脳の機能障害が「不器用さ」の原因
イメージどおりに自分の体を動かすためには、筋肉と脳、そして感覚の3つがそれぞれうまく機能し、連動していることが必要です。
脳は、視覚、聴覚だけでなく、平衡感覚、触覚、深部感覚(筋や腱などにある感覚器から伝わる感覚のことです。目を閉じていても手足や体の場所や状態を知ることができます)など、外部から取り入れたさまざまな感覚情報を調整し、どう体を動かすか、神経を介して体の各部の筋肉に指令をだしています。
それによって、手足や指先をはじめ、体全体が適切に動き、目的とする運動や動作ができるようになっているのです。
発達障害のある子は、この脳の調整機能に問題があるために、体をうまく動かせなかったり、力加減が不適切だったりして、「動きのぎこちなさ」や「手先の不器用さ」という問題が生じると考えられています。
障害のない子の場合は、脳の機能や運動は整っているので、運動が苦手だったり、手先が不器用だったりしても、それは単に経験不足によるところが大きく、適切な指導と練習を重ねれば、それなりの上達が見られます。
しかし、八徹障害のある子は、経験不足という以前に、体をイメージどおりに動かすための体の機能が整っていないので、苦手なことをただ繰り返す練習をするだけでは、上達は望めません。
障害のある子の不器用さを軽減するには、不器用さの背景にある障害を見据えて、脳、筋肉、感覚の連携を高める運動をすることが大切です。
そのために、作業療法士(OT)のもとで、専門的な指導が行われることもあります。
作業療法士が行う作業療法では、神経を介した脳と筋肉の連携を高めるために、ハイハイや高ばいをはじめ、全体のバランス運動につながるさまざまな遊具を使って体を動かしたり、つかむ、つまむといった手の機能の発達を促したりする運動などを行います。
なわとびができないからといって、なわとびを繰り返し練習させるのではなく、まずは体を適切に動かせるようになることが、障害のある子の不器用さの軽減には欠かせないことだといえます。
作業療法とは、Occupatical Therapyの略でOTとも言われます。病気やケガで肢体不自由な状態になった人の運動機能の回復や開発を促すために、さまざまな作業活動(仕事やあそびなど日常生活にかかわる活動全般のことを指します)を通じて、治療や援助を行うものです。
もともともは医療分野で扱われているものでしたが、近年、発達障害のある子が抱える発達課題(運動機能、日常生活活動、学習基礎能力など)に応じたOTによる支援が、医療機関や児童発達支援センターなどで徐々に行われるようになってきています。
子どもが自信をなくさない配慮を
不器用さを抱える発達障害のある子に対して、保育者がもっとも配慮すべき点は「できない」ことで子どもが自信をなくさないようにすることです。
足が速い、なわとびができる、絵がじょうずなど、体を動かすことや工作の得手不得手は、子どもの目にも一目瞭然です。そのため、子どもん世界では「できる、できない」がそのまま子どもの評価につながることが少なくありません。
そのようななかで、全般的な不器用さを抱える子どもには、成功の過程で、自信ややる気をなくしやすいという課題も生じてきます。
このような問題は、子どもが成長するにつれ、低い自己評価や自暴自棄などといった二次的障害につながることもあるので、幼少期における周囲の適切なかかわりはとても大切です。
障害のある子の不器用さは、本人の努力や練習、経験を積めば軽減できるといったものではないので、「何度も教えているのに、どうしてできないの?」という姿勢で子どもに接するのはよくありません。
周囲と比べて「自分はできない」と、子どもが自信をなくさないよう、途中まで保育者が手を貸し、最後は本人にやらせて達成感を味わえるような配慮も心がけましょう。
また、絵や造形物に対する評価も。「先生は、この色の組み合わせが好き」「迫力があって強そうだね」など、ありのままの作品の中から、その良さを見つけ出し、周囲の子にもアピールしながら積極的にほめる機会をつくれるといいですね。
運動機能の向上に役立つあそびや作業をじょうずに取り入れましょう
作業療法による指導は、障害のある子が抱える不器用さを軽減するうえで、とても有効ですが、その訓練を保育者が園で実施することは難しいかもしれません。
しかし、どういう指導が感覚の統合に有効かということや、障害のある子にも理解しやすい指導をするにはどうしたらよいかという方法を知っていると、保育のなかでの適切な関わり方が見えてくると思います。
保育の日常の活動のなかにも、障害のある子の感覚統合に効果のある運動や作業を、障害のある子に対する特別な訓練としてではなく、あそびや日常生活の一環として無理なく取り入れていくとよいでしょう。
例えば、バランスよく体を動かす力を養う運動として、床でごろごろと転がったり、ハイハイの姿勢で動くことや、紙風船をうちわで打ってあそぶ、壁に貼った紙に大きく絵を描くというのもよいでしょう。
他にも、ままごとで、お盆にお皿をのせて運ぶと、バランス感覚を養うことに効果的ですし、新聞紙を小さくちぎり、両手でしっかり丸めてボールあそびをすると、手先の緻巧性が高められます。
障害のある子が抱える「苦手」に取り組みやすくするための、指導と援助の3つのポイント
ことばだけでなく、体に手を添えて教える
発達障害のある子は、概念的なことばの説明を理解することが苦手です。ですから、はさみでうまく紙を切れずにいる子は、「はさみはこうやって持って、チョキチョキ動かして・・・」といったことばの説明だけでは不十分です。
あるいは、「先生がやるのを見ていて」とただ見本をみせても、そのイメージどおりに体を動かすことができません。
教えるときは、ことばによる説明や視覚的な説明ではなく、子どもの手首やひじに手を添えて、はさみの正しい持ち方や動かし方を実際に体験させながら教えましょう。
具体的にどうやって体を動かすのか、わかるように教えることが大切です。
うまくできたときのイメージを定着させることばかけを
うまくできたときは、自信につながるように、たくさんほめることが大切なのはいうまでもありません。
それに加えて、「紙をしっかりもっていたから、まっすぐ切れたね」というように、具体的に何がうまかったのか、成功したポイントはどこかを伝えることも必要です。
発達障害のある子の場合、できていることに本人が気づいていないことも多いので、できたことを本人が自覚できることばかけをしていきましょう。
あれもこれもと欲張らず、課題をしぼって教える
発達障害のある子は、はさみだけが苦手というわけではなく、同時に洋服の脱ぎ着やボール投げ、ブランコなど、苦手なことがたくさんあることが多いようです。
しかし、あれもこともと一度に教え込もうとすると、本人がやる気をなくしてしまうので、「今週は、はさみの使い方をじっくり教えよう」などと、課題をひとつにしぼって教えるようにしましょう。