小学校入学への不安を、子どもの健やかな成長で前向きに考える
クリスマス、お正月をすぎると、節分やひなまつりを経て、あっという間に卒園式のシーズンですね。
保育のしあげ、教育のしあげのこの時期だからこそ、心がけたいことがあります。
子どもたちの成長を保護者と一緒に喜び、進級や卒園への感動を共感することを目標に充実の3か月を送りたいですね。
小学校入学を控えて、子どもや保護者が抱える不安を少しでもやわらげ、子どもの成長につなげたいるために、どのような保育をしていくのがよいのか、考えていきましょう。
集団活動で喜びを共有する保育を
年が明けると卒園まであと3か月・・・、特に年長児クラスでは卒園に向けての準備や行事など取り組む課題が多く、子どもたちも保育者も何となく落ち着かない毎日をすごしているのではないでしょうか。
保育者は子どもたちのこれまでの育ちの中で培ったものを大事にして、花を咲かさせて卒園させたい、小学校入学へつなげたい、という思いはあるものの、課題に追われて子どもをそのような視点で見ることが難しくなりがちです。
あれができていない、これもできない・・・と、足りないところばかり見えてきて、このこともクリアできるようにもっと頑張らせたいというマイナスの視点の保育に陥りやすいと思います。
また、保護者の「学校に行っても大丈夫なのだろうか」、「ちゃんと座っていられないのでは」「数字もわからないし、字もまだ書けない」などの焦りや、「学校に行ったら、いじめられる、いじめるのでは」という不安や心配もあるでしょう。
でも、周りの大人たちがみんな「あと2、3か月で小学校に適応できて、うまくやっていくように」と意気込んでしまうと、子どもたちは息が詰まってしまうのではないでしょうか。
子どもたちにとっては、「小学校に行ったら」というのは、ちょっと楽しみではあるけれど、プレッシャーでもあるのです。
この時期、次のような気持ちや体験を、卒園までにしっかりと経験し、小学校入学に向けて準備をしていきたいものです。
人間関係の基礎を築く
●友だちってけんかもするけれど、一緒にいることはとても楽しくて、大事
●友達と毎日遊んだ中で、トラブルも一緒に乗り越えられ、そのときの気持ちが頑張るもとになった
●この大人とはちゃんと付き合えて、困ったときには自分をゆだねられるし、甘えたい
●ときには心身ともに安心して甘えられる
人間関係の基礎を築くことは、子どもたちが成長していく中でとても大切なことです。
スムーズな学校生活や学習も、友だちや大人を信頼できるようになる中で獲得していきます。
そうはいっても、小学校では、教員が一人で見る子どもの人数は園生活よりも多くなるでしょう。
友達と一緒に何かをやることがとことん楽しいという体験や、大人との信頼関係を築くことは、乳幼児期の保育や教育のなかでしか体験できないことかもしれません。
では、どうやって築いていったらよいのでしょう?
保育者が子どもの姿をきちんと見る
それは、保育者が子どもたちの姿をしっかりと見ることです。それには、アイデアと工夫が必要です。
この時期にもう一度、子どもたちはどんな思いで毎日生活しているか、友達関係はどうなのかなど、一人ひとりの思いを振り返って確かめ、どの子も心から楽しかった、おもしろかったと思える生活を作ることです。
行事も、その道筋の中でプラスになるように位置づけていくといいですね。
日々の保育の中でも、壮大なごっこあそびや基地づくりなどを、子どもたちが思う存分に展開する、近くの公園や林の中に探検にでかけてみるなど、毎日、子どもたちが夢中になって遊び、そこに保育者も一緒に熱中していける・・・そうなると、子どもたちにとってはとても魅力的な時間になるでしょう。
そして、保育者の中にも子ども一人ひとりのいきいきとした姿が思い出として刻みこまれる、そういう保育を卒園までの3か月間、心がけてみましょう。
もう一度、生活や人と関わる力を整えておきましょう
文字を書く、数字が読めるなど、目に見えることではなく、学校の生活や学習の土台となる「人とのコミュニケーションできる力」がしっかり育っていますか?
また、小学校は園と違って、基本的に保護者の就労状況を考慮してくれません。
家庭と協力して「早寝早起き」(生活リズム)、自分のことは自分でするなど、自己管理する力をもう一度見直してみましょう。
自分が認められ、大事に思われているという実感がもてないために、ちょっとのことですごく傷ついてしまう・・・自分が否定されていると思ってしまう・・・友達と比べて自分はダメだと思い、固まってしまったり暴れてしまう・・・。どこの保育園や幼稚園でも、本人も周りの子どもたちも幸せではない状況がクラスの中にあらわれることはたくさんあると思います。
その背景の問題は家庭にも関係することで、園の仲だけではクリアしきれません。
でも、子どもは案外たくましいものです。家庭内がどんなに深刻でも、園で徹底してその子と関わっていけば、きっと、人と関わることの楽しさや人間を信頼する気持ちが育っていくと思います。
そこまで深刻でない子の場合でも、それを配慮した保育を続けていけば大丈夫です。3か月あれば、ずいぶん変わってくることでしょう。
卒園に向けて、1日の生活リズムは安定した流れになっているかどうかの再点検は、ぜひしておきたいものです。
保護者とも協力して、「子ども自身の生活する力」を再確認し、自分の生活は自分で作っていける道筋を立ててみましょう。
●秋ごろから昼寝時間を見直し、たっぷりとあそぶ
●一人で衣服を着る、たたむ
●図鑑や絵本などで、体の仕組みなど興味をもったことを調べてみる
●親子で早寝早起きを記録してみる
●テレビは見る番組や時間を決め、自分でスイッチを切ることができる
●親子で話したり、絵本を読むなど、くつろいで静かにすごす時間位かえてみる
●用意できていれば、子どもが自分の意志で食事や入浴をすませて眠ることができる
など、各家庭の事情や生活習慣もあり、容易ではないかと思いますが、卒園までの3か月間、ゆったりとした生活をつくっていきましょう。
落ち着き、そして集中して一つのことに取り組ませる力をつけるためにちょっとした工夫を
集中力や少しがまんする力を育てること、苦痛にも耐えることを教えるのは大事なことですね。
でも、座ることを目的にして集中させるのは、大人だって苦痛です。「小学校に入学してから困らないように」という形だけの取り組みにならないようにしたいものですね。
最近、「授業中うるさい」「席に着かない」「集中力がない」「集団行動に協力しようとしない」・・・など、学校生活の大変そうなようすが伝わってきます。
卒園を間近に控えた保護者にとっては、わが子のことが気になるのは当然のことですね。
そこで、生活や遊びのなかで、楽しみながら、無理をしないで、集中力や少しがまんする力を育て、苦痛にも耐えることができる取り組みを工夫してみましょう。
いずれの活動も、子どもたちが環境に関わり、興味のあるところを保育者が重視していくことがポイントになるでしょう。
1日の活動にメリハリをつける
午前中は、座って、ゆっくり取り組む活動を。そして、午後は、散歩に出かける、図書館などの施設に行ってみる、思いっきり外遊びするなど、体を動かす内容にしましょう。午前と午後を入れ替えてもいいでしょう。
ゆっくり取り組む活動例
みんなで絵を描く(無理なく「文集作り」につなげてもいいでしょう)、手をつかってじっくり取り組む、縄跳びの縄を編む、毛糸で壁掛けなどを作る、粘土でお皿を作って焼く、鬼のお面を作る、おひな様の着物を縫って作る針仕事など、素話を、イメージしながら15分くらい聞く、詩を声に出して読んでみる、短い物語を暗唱して話してみる、給食の時間に、大きな時計を置いて、自分なりの時間目標をもって食べてみる、面白かったことや感動したことなどを言葉にして大いにしゃべり合う・・・など。
いわゆるお勉強でなくても、こうした活動の中で、子どもたちが新しい力を獲得していく姿、園として大事に思っていることなどを、保護者に、丁寧に伝えていくことも忘れないようにしましょう。
いままでスポットを浴びてこなかった子どもこそ、この時期、花開かせて
保育者は、なにか形にみえる成長の証を求めがちです。
いままで控えめで、目立たなかった子も、周りが認めるきっかけをつくり、自信をつけさせたいものです。
子どもたちは園の友達同士の関係の中で、自発的に力を発揮して遊んだり、暮らしたりしてきたことでしょう。特に保育園では、0歳児からの6年という長い年月の園生活を送ってきた子もいます。知恵と工夫で子どもなりの思いを遂げる力は、集団として高まってきているはずです。
そのことを見通しながら、何事もじっくり取り組むタイプで、目立たなかった子、いつもおとなしく発言が控えめな子なども、どこかで主役になって、自信をつけて卒園させたいものです。
生活発表会で劇に取り組む場合は、今までスポットを浴びてこなかった子も主役になれるような題材選びを心がけてみましょう。
担任の思いもありますが、もちろん、選ぶのは子どもたちです。
例えば、縁の下の力持ちも主人公になれるのだ、と心に響いてくるとうな内容のお話はどうでしょう?じっくりお話を読んで、心をゆるがせられた子どもたちは、劇に取り組む中で、今までためこんできた一人ひとりの力を集大成して、クラス集団としても高まっていくことでしょう。
発表会当日は、保護者とともに、子どもたちが友達と関わり、学んできた姿(成長)を確認し、喜び合いたいですね。
でも、どうしても大勢の前で自分を表現するのが苦手で、パニックになってしまう子どももいます。「今年は、そんな子たちが多いな」と思ったときは、無理をしないで、例えば、子どもたちが作って、保護者を招待し、一緒に楽しく食べて遊ぶパーティーなどに変更してはどうでしょう。
その際、保育者としての思いを保護者に伝え、納得ゆくまで話し合うことが大切です。
オフピークの行事設定で、子どもも保育者も忙しいこの時期の園生活を、ゆったりとしたものに
保育者のゆとりのなさは子どもにも影響します。
行事や課題に追われがちの、この時期だからこそ、保育者も子どもも心ゆったりとした生活をしたいですね。
また、保育のまとめを園全体で行っていくことも重要です。
卒園目前で、年長児たちは小学校の見学、年中児への飼育当番の引きつき・・・と忙しい毎日です。
また、年長クラスの担任は、他クラスにはない、「文集づくり」をはじめ、卒園に向けての雑用に追われたり、「やり残していることがあるのでは・・・」と気が焦ることもあるでしょう。
そうなると、じっくり子どもたちと話したり、遊んだりできない毎日になってしまいがちです。
大人が殺気立ってしまうと、子どもたちも不安になります。
まずは、保育者が子どもたちの未来を見据えて落ち着いていくことも大切なことです。
保護者の「学校行って大丈夫・・・?」の不安や心配に早めにこたえたい
小学校の先生や、既卒園児保護者、年長児保護者、保育者合同の懇談会を早めに開き、気になっていることに答えていきましょう。
また、子どもにつけておきたい力も具体的に伝えてもらいましょう。
「学校見学」で小学生に歓迎してもらい、一緒に給食を食べたり、学校ってどんなところなのかを体験すると、子どもたちの学校へのあこがれは高まっていきます。
その一方で、「小学校に行って大丈夫?」と不安に感じている年長児の保護者もいます。小さな心配が大きな心配になる前に、小学校の先生、既卒園児保護者、年長児保護者、保育者合同で「就学前学習・懇談会」を早めに開いてみてはどうでしょうか。時期はなるべく年内に設定したいですね。そこでは、次のようなことに取り組んでみましょう。
●お互いに、情報交換をする
●気になっていることに、学校側に丁寧に答えてもらい、卒園児保護者には体験を通してのアドバイスをお願いする
●保護者に、学校に対するイメージを具体的にもってもらう
●小学校では、生活の中で気になる子でも、先入観なしに受け止めてほしいことを伝える
●目に見えないけれど、つけておきたい力について具体的に話してもらう。
さまざまなことを語りあうことができますね。
自らの体験をもとに、学校のこと、子育てのことなど、熱心に話してくださる先輩保護者の姿に、きっと不安も解消されていくのではないでしょうか。
やむを得ず、欠席した保護者がいた場合は、話し合いのようすをクラスだよりや掲示板でわかりやすく、丁寧に伝えたり、保護者会でしっかり話してみるのもよいでしょう。
延長保育や夜間保育で、この時期に見直したいこと
今日では、保護者の就労形態の多様化に伴い、保育園で深夜まで生活している子どもたちも少なくありません。
学校生活が始まったら、就寝、起床時間はどうなのか、下校時にどうすごさせればよいのか、など、保護者とじっくりと話し合っておきましょう。
現在、延長保育も夜10時、夜間保育は深夜までと、子どもたちが保育園ですごす時間はどんどん延びてきています。
まず大切なのは、やはり生活リズムです。この時期に、夜型の生活リズムを徐々に朝型に変えることが大切です。
子どもが就学して、保護者の就労形態を変えることはなかなか難しいので、この朝型生活リズムを今後も継続できるように、次のようなことを中心に、ケースバイケースで保護者と何回もじっくりと話し合うことが大切です。
●子どもの就寝後、保護者が遅く帰ってきて食事という場合、子どもが起きてきても、一緒にまた食事をするのはやめる(途中で目が覚めても、すぐにまた眠りにつけるよう習慣づける)
●就学後は、朝寝坊や遅刻はできないので、保護者も頑張って朝起きて、朝食はいっしょにとる
●宿題をいっしょにする時間を、なんとかつくる
また、保育園は、いつでも安心して、親子で、または子どもだけでも遊びにいけるとこだと伝えましょう。
一方通行ではなく、いつでも話せる雰囲気、いっしょに考える姿勢を大切にしたいですね。
「小学校ってどんなところ?」と親子で話し合う機会を作ってもらう
卒園、入学を楽しみに、親子でできること、頑張ってみることを話して前向きな気持ちを育てましょう。
子どもたちは、小学校に期待をもっています。
ですから、家庭でも、いまできないことよりもこれから始まる生活を前向きにとらえていってほしいですね。
懇談会で聞いた小学校のようすなどをもとに、家庭でも小学校について話し合う機会を作ってもらいましょう。
学区の違いなどで仲のよい友だちと離れ離れになることもあります。
そんな不安を子どもから話してくるかもしれません。
そんなときは「一人でいっても、どこへいっても大丈夫。また、会えるよ」ろ励ましてもらうように伝えましょう。
そして、これまでの園での成長とともに、「大きな集団になっても、たくましさが育っていれば大丈夫」ということを、自信をもって保護者に伝えましょう。
また、子どもが興味をもって、自発的に取り組んでいるのならよいのですが、文字や数の習得に躍起になっていることが、学校への不安を芽生えさせてしまうことがあるのを知ってもらうことも大切です。
学童クラブに通う子は、夕方帰ってくる生活になると、不審者やトラブルに出会う可能性も出てきます。何かあったら、必ず「助けて!」と大きな声で言えるように、親子で話し合いながら、身につけさせたいですね。