発達障害|障害のある子の保護者への支援とは
発達障害のある子のよりよい育ちのためには、園や保育者による保護者への支援も欠かせない要素です。
子育てに多くの不安や悩みを抱える保護者と、どのように信頼関係を築けばよいのか、考えて見ましょう。
その背景に思いをめぐらせることが、保護者理解への第一歩
保育者が、発達障害のある子の保育に難しさを感じるのと同じように、発達障害のある子の保護者の多くは、わが子への関わり方の難しさを感じながら子育てをしています。
そのため、発達障害のある子の保護者は、健常の子をもつ保護者よりも子育てに対してより多くの不安や悩み、苦労を抱えていることが多々あります。
「困った子の親」として周囲から心ない言葉を受け、つらい思いをしてきた保護者も少なくないでしょう。
また、発達障害の可能性を感じつつも、その事実を受け入れられなかったり、自分の子育てに自信をなくしたりして、ひとりで苦しんでいる保護者もいます。
このような保護者に対し、保育者はその気持ちに寄り添うことで、よき理解者、よき子育てのパートナーとして保護者をサポートしていくことが求められます。
そのためにはまず、保護者が抱えているであろう不安や悩み、苦労に思いをめぐらせ、その背景を理解しようと努力することが必要です。
そして、日ごろから積極的にコミュニケーションを重ね、会話のなかでは子どもの話だけでなく、保護者自身の努力やがんばりを認め、ねぎらう言葉をかけるなど、保護者の精神的な支えになるよう努めましょう。
保護者の傾向を見極めて、慎重なアプローチで関係づくりを
子どものよりよい育ちのためには、園と家庭の連携や協力が不可欠です。
特に発達障害のある子の場合、その子の特性や適切なかかわり方について、園と家庭が密に情報交換し合い、共通認識をもって子どもの育ちを支えていくことがとても重要になります。
子どもに発達障害の診断があり、すでにそれを受け入れることができている保護者は、療育機関を利用していることも多く、発達障害に対する理解もあるため、園との連携に積極的であることが大半です。
しかし、なかには子どもの障害に気づいていない、あるいは「障害があるかもしれない」という不安を感じつつも、それを受け入れることができない保護者もいます。
このような保護者には、子どもが発達障害だという前提での話しがしづらいので、家庭との連携が難しくなりがちです。保育者としては、早く保護者に現状を知ってもらいたい、子どもにとっていちばんよい対応をいっしょに考えてもらいたいと思うところですが、保育者の気持ちばかりを先行させ、時期尚早に踏み込んだ話をすると、保護者を傷つけるだけでなく、その心情を害し、関係が悪くなってしまうこともあります。
保護者へのアプローチは、その性格や思いに配慮しながら、ゆっくりと慎重に進めていくことが大切です。
アプローチが難しい保護者のタイプ
大きくなればそのうちできるように・・・問題意識が低い保護者
「子どもに落ち着きがないのはあたりまえ」、言葉が遅くても「そのうち話せるようになる」という考えが強く、子どもの現状に対する問題意識が低い。
そんなはずはない!・・・現実から目をそらしている保護者
「うちの子は、ほかの子と違う」と発達障害の可能性を感じながらも、それを認めたくない気持ちが強く、専門機関への相談も「必要ない」と思っている。第三者からの指摘には、強い不快感を表しやすい傾向がある。
うちの子はいい子です・・・子どもの特異性に気づいていない保護者
発達障害の特性によっては、家庭のなかでは問題行動が見えにくく、集団生活のなかでその特性や問題点が顕著になることもある。集団のなかでの子どもの姿を知らないため、その特異性に全く気づいていない。
焦らず、時間をかけて「この先生なら」と思われる関係づくりを
発達障害のある子のよりよい育ちのためには、園や保育者による保護者への支援も欠かせない要素です。
子育てに多くの不安や悩みを抱える保護者と、どのように信頼関係を築けばよいのか、考えて見ましょう。
発達障害の可能性を告げられることは、保護者にとっては非常につらいことです。
そのようなデリケートな心の核心に触れる前には、保護者から「この先生が言うことなら・・・」と思われる信頼関係を築いておくことが大切です。
発達障害のある子の保護者に限らず、すべての保護者に対して言えることですが、保護者との関係づくりの土台となるのは、日ごろのコミュニケーションです。その積み重ねと、日々、真摯に保育にあたる保育者の姿を見ることで、保護者の保育者に対する信頼は生まれるものです。
信頼関係は決して意一朝一夕にできるものではありません。焦らず時間をかけて丁寧に関係を築いていきましょう。
保護者とのよい関係づくりに欠かせない3つのポイント
笑顔であいさつ
まずはコミュニケーションの基本である「笑顔であいさつ」を日々心がけましょう。
それに加えて、「毎日雨でいやですよね。洗濯物がたまって困りますよね」「髪を切ったのですね。とてもお似合いですよ」などといったたわいもない日常会話を交わせるようになれば、保護者との距離も近づき、話のしやすい関係を築きやすくなります。
子どものようすをこまめにつたえる
園での子どものようすやエピソードをこまめに伝えていくことも大切です。
特に、関係づくりの初期は、子どものマイナス面や気になるようすよりも、その子のよい面や成長が感じられる話を積極的に伝えていきましょう。
そうすることで、「この先生は子どもをよく見てくれる、わかってくれている」という保護者の安心と保育者への信頼につながります。
話に耳を傾け、受け止める
人は、自分の話に共感してくれる、受け止めてくれる相手に心を開きます。保護者の話や相談には、じっくりと耳を傾けましょう。
また、相談を受けたときは、「その後、いかがですか?」」「園では~です」などと、その後のようすを尋ねたり、経過について報告したりすることが大切です。そのときだけでなく、継続的に気にかけていく姿勢が大切です。
保護者自身が子どもの課題に気づけるようなかかわりを
子どもの発達障害を受け入れられていない保護者や、現状を認めたくない保護者に対して、子どものようすや発達の気になる点を伝えるときには、たとえしっかりと良好な関係が築けていたとしても、細心の配慮を持ってアプローチすることが必要です。
それまで子どものマイナス面について、保育者から何も聞かされていないのに、ある日突然「お子さんには、日ごろ○○といったようすがあり、発達障害の可能性もあるかと思う」といった話を切り出されても、保護者はすぐに話を受け入れることはできないでしょう。
ふだんから、時折、園での気になるようすについて「好奇心旺盛なのは○○くんのよいところ。ただ、気になることがあるとすぐにそちらに気が向いて先生の話がきけなくなってしまうときもある」といった話にをあまり深刻にならない程度にやんわりと伝えておくと、保護者が子どもの課題に気づいたり、問題点を注視するきっかけになったりもします。
同時に「おうちでも、そのようなことはありますか?」などと、家庭でのようすについて尋ねてみるのもよいでしょう。「実は・・・」と保護者自身が抱えていた悩みを保育者に打ち明ける布石になることもあります。
子どもの現状を保護者にただ突きつけるのではなく、保育者がそれに対してどのように対応しているのかも伝えながら、保護者自身が子どもの課題に気づいたり、子育ての悩みや困っていることを保育者に相談しやすい流れをつくっていくことが大切です。
ここに注意したい!保護者との関係を難しくしてしまうアプローチ
保護者を責めるような言葉を言ってしまう
「落ち着きがなく、じっと座っていることができないので、園として困っています」といった言い方は、保護者にとっては「親のしつけが不十分、家庭でしっかりと言い聞かせてほしい」というクレームに聞こえかねないので注意が必要です。
保育者がすべきことは、保育者も困っている現状を訴えるのではなく、子ども自身がスムーズに活動できずに困っている現状と、それに対して園ではどのような対応をしているか、を伝えることです。
そして、家庭でのようすも聞きながら、家庭と園とで足並みをそろえてよい対応を考えていきたい、という意思表示をすることです。
専門機関への相談を安易にすすめない
保育者の目からみて、発達障害の可能性を強く感じていても、安易に「発達障害」という言葉をだすことは控えましょう。「発達障害の専門機関に相談すると、適切なかかわり方を教えてもらえる」「発達障害の診断があれば加配がつけられ、子どもにとってもよい環境になる」ということも、もちろん事実ですが、保護者としてはそれだけ伝えられると、「園に見放された」と感じてしまうこともあります。
保護者にはまず、園にとっても大切な子どもであることをしっかりと伝えましょう。「専門機関」や「診断」といったキーワードを出すのは、園としてできうる限りの努力をし、保護者といっしょに試行錯誤してから、と考えましょう。