自閉症など発達障害の子ども以外にも、絵カードは効果的です
保育園での生活を絵カードにして、視覚支援をすると、子どもたちが理解しやすくなることがあります。
発達障害の子どもへの対応として絵カードの使用を取り入れることもありますが、障害のない子どもにとっても、絵カードは効果的なものです。
どうして視覚支援をするの?
発達に課題のある子どもは、日々、発達障害ゆえの困り感を抱えて生活をしています。
しかし、子どもが何にこまっているのかを周囲が理解することで、その困り感を軽減し、子どもが本来の力を発揮できる環境をつくることができます。
その環境づくりの一端を担う支援の方法についてご紹介します。
発達に課題のある子と接する保育者は、指示の通じにくさや、その子の思いや望みのわかりにくさなど、日々、コミュニケーションの難しさを痛感していることでしょう。
また、この子たちは、保育の流れにのれずに集団からはみ出したり、取り残されたりすることも少なくありません。
発達に課題のある子は、その対応の難しさゆえに、周囲から「困った子」ととらえられてしまうこともあります。
しかし、本当に困っているのは子ども自身です。
本人たちもまた、人とうまくかかわれない、集団生活における営みの意味を理解できない。といった困り感を抱えていることが多々あります。
保育者は、子ども自身が困っているという視点から、適切な支援を考えていくことが求められます。
そして、このような困り感は、次にあげる発達障害の特性と大きく関係しています。
●先の見通しを立てるのが苦手
●周りの状況や人の動き、表情などから、その場に合ったふるまいをすることが苦手
●言葉による指示を頭のなかでイメージに置き換えることが苦手
このような発達障害の特性がもたらす子どもの困り感を軽減するのが、視覚支援です。
目に見えないもの、目の前にないものをイメージすることが苦手な子どもたち
発達障害の特性からもわかるように、発達に課題のある子は、目に見えないものを具体的なイメージに結び付けてとらえることが苦手です。
例えば、「話し言葉(会話)」という目に見えない、音の集まりは音して耳に届いても、頭のなかで、言葉が示す意味と結びつかずにイメージが浮かんでこなかったりするため、言われていることをスムーズに理解するのが困難です。
また、人の気持ちや場の雰囲気を察したり、いわゆる「空気を読む」ということも得意ではないため、暗黙の了解として、みんながあたりまえにしている行動やふるまいができず、なかなか集団生活になじめないということもあります。
目に見えないものをイメージすることが苦手なので、これから何をやるのか、という先の予測を立てることも苦手です。
「これが終わったら○○をやる」といった見通しが持てないので、不安感が強かったり、「苦手な工作だけど、終われば外遊びだ」といった期待感が持てないため、苦手な活動を激しく拒むなど、嫌なことが我慢できなかったりすることがよくあります。
わからないからできない。わかればできる。視覚支援で、「わかる」環境づくりを
目に見えない「話し言葉」や「場の雰囲気(暗黙の了解)」を正しくとらえ、理解できるようにするための支援が「視覚支援」です。
目に見えない話し言葉は文字や絵、写真など、目に見える形の情報にして子どもに提供することで、子どもはその意味を理解できるようになります。
「廊下は走らず、歩きましょう」という目には見えないルールを、文字と絵を用いたポスターで視覚化し、廊下に掲示することで、ルールを理解し、廊下を走らず歩くようになります。
発達に課題のある子は、他の子があたりまえにできていることができない、ということが多々あります。
しかし、これは能力的にできないのではなく、「どうふるまえばいいかわからないから、できない」のです。
なので、視覚支援で理解しやすいようにして提供することで、子どもは意味を理解し、ふさわしいふるまいができるようになります。
視覚支援が目指す、子どもの最終的な姿とは
視覚支援の具体的な方法いは、カード支援とスケジュール支援があります。
カード支援は、絵カードや写真を貼ったカードを用いた支援で、主に子どもとの意思伝達をスムーズにするために使われます。スケジュール支援は、2枚以上のカードを並べて見せ、「これをやったら、次はこれをやります」といった活動の流れを示すことで、子どもが活動に見通しを持てるようにします。
視覚支援というと、それを見せれば、指示が伝わり、子どもが保育者の思うように動いてくれるようになる、と思われがちです。しかし、この支援の目的は、「子どもを動かしやすくすること」ではありません。
明確なコミュニケーションが取れる環境、先を見通せ、安心して活動できる環境を保障することで、「子どもが納得して、みずから動けるようになること」が、視覚支援の最終的な目的となります。
「子どもにわかりにくいものを、わかりやすく示す」という点で、カード支援やスケジュール支援は、とても有効な支援です。
しかし、カードやスケジュールの使用経験のない子に、突然それらを見せても、子どもはその意味するところがわかりません。
子どもがカードやスケジュールの意味を理解し、使えるようになるには、ある程度の手順が必要です。その手順についてご紹介します。
保育の流れを定着させるための手順
1.その子ができそうな、「小さな保育の流れ」を見つける。
いきなり1日の大きな流れを定着させるのではなく、生活の一場面を切り取った「小さな保育の流れ」の定着をめざします。
どの場面を選ぶかは、子どものようすをよく見て決めましょう。
その子が大好きな活動や、興味をもっている活動を軸にすると、流れがつくりやすくなります。
あれもこれもと欲張らずに、まずは子どもが無理なくできそうな「流れ」をひとつ見つけてみることが大切です。
2.保育者がそばについて、声をかけながら丁寧に繰り返し伝える。
保育の流れは、生活リズムとして体が覚えこむまで、毎日繰り返すことでしか、定着させることはできません。
発達に課題のある子どもは、定着までに時間がかかりますが、焦らず、根気よく繰り返し教えていきましょう。
教えるときは、保育者がついて手を添え、丁寧にやり方を伝えていくことが大切です。
うまくできたら、「すごいね、ひとりでできたね」などと、たくさんほめましょう。
子どもが楽しく取り組めるように、できたらシール帳に自分の好きなシールを選んで貼れる、といったお楽しみを用意するのもよいでしょう。
3.保育者がついていなくても、自分から保育の流れにのって動けるようにする。
保育者がついていれば、やがて保育の流れにのって活動できるようになりますが、つねに保育者がいなければ活動できない、というのは不十分です。
園では発達に課題のある子も、自ら納得して動ける子になるよう取り組んでいきたいですね。
ようすを見ながら、保育者が手を添える場面を減らし、教える段階から、支援する段階、そして最終的には見守る段階へとステップアップしていくことをめざしましょう。
その日の気分や体調によって、昨日はできたのに、今日はできないということもあります。
焦らず、そのときの調子に合わせて支援することも大切です。
4.小さな保育の流れを、2個3個と増やしていく。
小さな保育の流れが定着していきたら、別の場面の小さな保育の流れの定着をめざします。
このようにして、小さな保育の流れを着実に増やしていくことで、それがつながり、1日の保育の流れが定着していきます。
しかし、1日の保育の流れが定着するまでには、半年や1年、なかには卒園までかかる子どももいます。焦らず、長い目で子どもの成長を見ていくことが大切です。
保育の流れが定着せず、保育者としてつらい時期もあると思いますが、卒園までに定着すれば、というくらいの気持ちで、ゆったりと構え、支援を続けていきましょう。
発達に課題のある子どもは、さまざまな困り感を抱えて生活しています。
支援の際には、子どもの困り感を理解し、それを軽減できる手段を考えていくことが必要です。
そして、その有効な手段となる視覚支援のなかから、カード支援とスケジュール支援を取り上げ、どのように子どもに定着させていくかをご紹介します。
次のページでは、カード支援をはじめる前に準備しておきたいことをご紹介します。