保育における保護者支援、子育て支援とは?必要性や定義、ねらい
保護者支援、子育て支援に対する社会的ニーズが高まっているなか、保育園や幼稚園に期待される支援とはどのようなものなのでしょうか?
また、どうあるべきか、考えていきたいと思います。
どうして保護者支援や子育て支援の推進、強化が求められるようになったの?
女性の社会進出や核家族の増加などといった社会の変化に伴い、近年では、子どもの預け先の問題をはじめ、育児の相談相手が身近にいないことによる育児不安の増加など、子育てに関するさまざまな問題が生じています。
保護者支援、子育て支援の重要性、必要性が高まってきた背景には、このような問題が存在しています。
また、保護者の養育力や地域の子育て力が低下している今、保育を専門とする保育園や幼稚園が中心となって、その向上に寄与することが望まれるようにもなりました。
育児に関する様々な悩みを抱えた保護者に、保育の専門家である保育士などが、その専門的知識や技術をもって相談を受けたり、助言をしたりすることで、保護者はその不安や悩みを解消したり、子育ての喜びを再認識して前向きに育児に取り組めるようにもなるでしょう。
このような支援によって、子どもへの虐待に予防や早期発見につながることも大いに期待されています。
また、地域によって差はありますが、都心部を中心に、未就学児の預け先は慢性的な不足状態にあります。
女性のライフスタイルや就労形態が多様化するなか、保護者の仕事と子育ての両立を支援するという意味でも、保育園や幼稚園には、保護者のニーズに応じた柔軟な保育形態が取れる体制を整えることが求められるようになりました。
これに対して、保育園では、延長保育や夜間保育、休日保育、病中・病後保育などの実施も期待されるところとなっています。
また、幼稚園には「教育課程に係る教育時間の終了後等に行う教育活動(いわゆる『預かり保育』『延長保育』)」のより一層の充実が期待されています。
今、日本は少子高齢化が進み、社会的にも大きな問題となっています。
保育園や幼稚園が、保護者の仕事と育児の両立を支援することは、少子化対策のひとつとして重要な意味もあり、大きな期待が寄せられています。
保護者支援、子育て支援に対する社会的ニーズが高まっているなか、保育園や幼稚園に期待される支援とはどのようなものなのでしょうか?
また、どうあるべきか、考えていきたいと思います。
保育園では、具体的にどのように保護者支援、子育て支援をしていけばいいの?
保護者支援とは、在園児の保護者に対する支援、子育て支援とは在園児の保護者に限らず広く地域の子育て家庭に向けた支援を意味します。
新指針には、保育園の役割としてその両方の支援を担うことが明記されています。
いずれも以前から行われてきたことですが、今回の新指針が大臣告示され法令となったことで、その役割はより大きなものとなりました。
在園児の保護者に対する支援としては、育児に関する問題を抱えた保護者からの相談を受けて、保育士としての専門性を生かした助言をしたり、適切な行動見本を提示することが挙げられます。
送迎時の会話やおたよりなどを通じて、保育園での子どもの活動やようすを細やかに伝えていったり、保護者懇談会や保育参観の開催や保護者同士の交流を促す配慮をするなども保護者支援につながります。
また、保育園の特性を生かした支援を行うためには、保育士による保育指導だけでなく、看護師や保健師による保健指導や、栄養士による栄養指導なども一体となって行うことが必要です。
地域に向けて保育園が行う子育て支援には、2つあります。
その1つは、「地域の子育ての拠点としての機能」です。
具体的には、保育園を地域の子育て家庭に開放して、育児講座や親子遊びなどのイベントを開いたり、育児に関する情報提供や育児相談を行うことがこれに当たります。
これらの活動には、地域の子育て家庭同士の交流を促すという目的もあります。2つめに「一時保育」があります。
これは、地域で必要とされている一時保育のニーズに応じて、市町村と連携しながら行うことが必要です。
幼稚園では、具体的にどのように保護者支援、子育て支援をしていけばいいの?
幼稚園教育要領では、「教育課程に係る教育時間の終了後等に行う教育活動などの留意事項」で、幼稚園が担う保護者支援、子育て支援について言及しています。
1つめは、教育課程外の教育活動、いわゆる「預かり保育」について、その活動のより一層の充実が記されています。
結婚後の女性の就業率の上昇や雇用形態の多様化などによって、保育のあり方にもさまざまなニーズが生じてきました。
預かり保育を実施する幼稚園が増えることは、待機児童が多い地域で子どもを保育園に入園させられなかった保護者や、幼稚園に通わせながら働きたいという保護者の仕事と子育ての両立支援につながっています。
さらに、幼稚園教育要領には、幼稚園の役割として地域の子育てを広く支援することも明記されています。
在園児の保護者だけでなく、地域の保護者とその子どもが集まれる場所を設けたり、育児相談、育児情報の提供などを積極的に行うことが求められています。
なかでも未就学児の入園受け入れや保護者同士の交流の機会を提供することは、特に期待されているところです。
幼稚園入園前の親子が園を訪れて活動することで、園のようすも分かるので、入園に対する不安を解消することもできるでしょう。
また、地域に住む同じ年齢の子どもを持つ親同士の交流を深められる場となることで、育児に関する悩みを相談し合える仲間づくりへの貢献も期待できます。
幼稚園での預かり保育は、どのように取り組めばいいの?
幼稚園教育要領では、預かり保育のことを章立てして取り上げられています。
これは、近年預かり保育を実施する幼稚園が増えたことから、預かり保育の運営や保育内容について、より一層の充実が求められるようになった、ということを意味しています。
保育内容の充実をはかるには、預かり保育も幼稚園が行う教育活動の一環として教育課程の活動と同様に計画を作成して活動を行うことが大切です。
また、クラス担任と預かり保育担当者の連携を密にして、教育課程内の保育のつながりを考慮した計画を作成したり、幼稚園ですごす時間が長くなることで生じる子どもの負担を十分に考慮することも必要です。
運営の充実については、まず施設長が中心となって適切な指導体制を築くことが求められます。
預かり保育の担当者としてふさわしい人材や、必要な人員数を確保することも必要です。
専用の保育室を設置して、環境を整備することも、今後の課題となるかもしれません。
保護者支援、子育て支援はどのような気持ちで望むべきか
児童福祉法に、保育士の業務として保護者に保育に関する指導とあったり、保育園については保護者に対する保育指導も、子どもへの保育と同様の保育業務の1つとされています。
また、幼稚園においても、保護者が抱える育児の悩みや問題の相談を受けるなどの支援は可能な限り積極的に行わなければいけません。
しかし、保育園、幼稚園ともにいえることですが、在園児の保護者に対する支援、地域の保護者に対する子育て支援のいずれにおいても、子どもへの保育に支障がない範囲で取り組むというのが基本姿勢となるでしょう。
保護者支援、子育て支援に注力しすぎて、本来の保育業務に支障がでることは望ましくありません。
子どもへの保育業務に支障が出ない範囲で、最大限の保護者支援を行っていくためには、ひとりの保育者が問題を抱えるのではなく、園全体で問題を共有し解決にあたっていくことが不可欠なのです。
保護者の相談のなかには、非常に深刻でデリケートな内容もあります。
対応に悩んだときは、他の保育者や園長に相談して、慎重な対応をしていくことが求められます。
また、地域の保護者に園を開放したり、育児相談や育児講座を開催するときも、園長を中心として、園全体で組織的に取り組んでいくことが大切です。
深刻でデリケートな悩みを相談してきた保護者は、どのように対応する?
育児や子どもに関する保護者からの相談を受け、適切なアドバイスをすることは、保育園や幼稚園に勤務する保育者にとっては、とても大切な役割の1つです。
保育者という立場から、その専門性や技術をもって、保護者の気持ちを受け止めながら、保護者の養育力向上を目指し、問題解決に向けての助言を行うことは必要です。
しかし、保育者は保護者の相談を受ける専門家ではないので、保護者が抱え持つ多種多様な問題のすべてに適切な助言をし、解決していくことは困難です。
園ができる対応だけでは解決が難しいと判断される場合は、相談内容に応じて、外部の専門機関と連携しながら、支援にあたっていくこともあるでしょう。
また、相談内容やケースに応じて、連携すべき専門機関を適切に判断するには、ソーシャルワークという技術も必要になるでしょう。
ソーシャルワークとは、社会福祉の専門的援助技術のひとつで、相談者の抱えた問題の内容を吟味したうえで、相談者にもっとも適した社会資源を探り、サービスを提供しながら問題を解決していく活動をいいます。
必要な社会資源がない場合は、行政や他の専門機関に伝えます。もちろん、保育園や幼稚園でこのような活動をすべて行えるわけではありませんが、今後はソーシャルワークの知識や技術の一部を活用した支援をすることが重要になってくると考えられます。
また、保護者から相談を受ける際の基本姿勢として大切なのは、「受容」と「自己決定の尊重」です。保護者の思いや考えを尊重し、ありのままを受け止めること、そして保護者自らが選択、決定していくことができるように支援することが大切です。
さらに、保護者の相談を受けるなかで、注意しなければならないのが、個人情報に関する守秘義務です。
保護者との信頼関係は、個人情報が守られているという前提の上に成り立っているものです。虐待の通告義務に限っては守秘義務に優先しますが、それ以外のケースについては、保護者の相談から知り得た情報を漏らしてはいけないことが児童福祉法でも厳しく定められています。