ユニバーサルデザインを保育に取り入れるねらいとは?
ユニバーサルデザインって何?という人、知ってるよという人、いろいろかと思います。
ここでは、ユニバーサルデザイン的な発想で考える保育のあり方について、ご紹介します。
ユニバーサルデザインが何かということに言及する前に、どうしてユニバーサルデザインを保育に活用していくとよいのかをご紹介しますね。
ユニバーサルデザインを取り入れた保育を考えることは、全体の保育を考えることにつながります
ユニバーサルデザインを保育に取り入れることは、発達障害のある子のことを考慮していることが多くあります。
発達障害のある子に見られる特性や行動と、それへの対応というのは、ひとことでいっても、子どもの性格や個性はそれぞれ一人ひとり違うので、その子に合った最善のかかわり方や対応方法も千差万別です。
子どもの特性に応じて、こんな方法もあんな方法も、と試行錯誤しながら保育者としての引き出しを増やしていくことはとても重要なことです。
子どもの数だけ対応法もある、ということになりますが、その基本は「発達障害のある子がすごしやすい環境を整えるための対応、わかりやすい保育を行うための対応」です。たくさんの子どもがいるクラスのなかで、障害のある子の対応を常に個別で考えることは難しいことです。
しかし、実は発達障害のある子にとってすごしやすい環境、わかりやすい保育というのは、障害のない子にとってもすごしやすい環境であり、わかりやすい保育になります。
「発達障害だから、こうする」というようにすべて特別に考えるのではなく、「どうしたらわかりやすい保育になるのだろう」という発想でかかわり方や対応を考えてみましょう。
そうすることで、障害のある子はもちろん、すべての子にとってすごしやすく、わかりやすい保育のあり方について考えることにつながっていきます。
発達障害のある子だけのための特別な保育ではなく、すべての子を視野に入れた「ユニバーサルデザイン」な発想から保育を見直すことで、保育の質を全体的に高めていくことを目指しましょう。
発達障害のある子への対応例
集中力が乏しい子には・・・
子どもの気を引くもの(おもちゃや装飾)を視界に入れないようにする
こだわり行動が強い子には・・・
その行動を行うことで落ち着き、次の行動に移行できるなら、本人の自由にさせる
手先の作業が苦手な子には・・・
作業がしやすいよう、大きめの素材を与えたり、道具の工夫をする
大きい音が苦手な子には・・・
排除できる音は排除する。事前に音が出ることを伝えて耳をふさがせる
いつもと違う活動に混乱しやすい子には・・・
見通しをもって活動に参加できるよう、事前に活動内容を伝えたり、事前練習をする
うろうろ歩きまわってしまう子には・・・
集中しやすい環境をつくり、「いつ」まで座っていなければいけないのかを具体的に伝える
子どもにより、対応はケースバイケースで、ここで紹介した対応が不適切な場合もあるかもしれません。しかし、基本は「子どもがすごしやすい環境を整え、わかりやすい保育を行うこと」です。もちろん、子どもに媚びるということではありませんので、集団生活のなかでの保育を意識しつつ、よりよい保育に取り組んでいきたいですね。
ユニバーサルデザインがめざすのは、誰もが快適にすごせる、簡単に使えるという環境
「ユニバーサルデザイン的な発想で考える保育」ということばを使いましたが、ここで少し、「ユニバーサルデザイン」の考え方について触れておきましょう。
ユニバーサルデザインとは、障害のあるなしはもちろん、性別や年齢、国籍などにかかわらず、すべての人が快適に使える(使いこなせる)環境や製品などのデザインを目指す考え方のことです。バリアフリーは、障害のある人や高齢者など特定の人にとっての障壁(バリア)を取り除くことを目的としていますが、ユニバーサルデザインは、その対象を障害のある人や高齢者に限らず、「誰もが使いやすい」ということを目指していることがポイントです。そして、誰もが使いやすい道具を用意したり、誰もがすごしやすい環境を整えたりすることによって、障害のある人ももともと持っている力を発揮しやすくなることをめざしています。
障害のある人は、とかく「がんばる人」と見られがちです。もちろん、がんばることは大切です。しかし、障害のある人の努力だけではなく、周りの環境がかわることで、障害ゆえに抱える困難さは軽減され、その人が今もっている力を発揮できるようになる、という発想は、障害のある人の支援を考える際の、ひとつの重要な視点になります。
身近な暮らしのなかにあるユニバーサルデザイン
シャンプーやリンスのボトルにある凹凸
目の不自由な人はもちろん、洗髪中で目を開けられなくても、触っただけでシャンプーかリンスかがわかる
広い公衆トイレ
車いすの人だけでなく、オストメイト(人工肛門・人工膀胱造設者)や乳幼児連れの人にも使いやすい
ドラムを斜めにした全自動洗濯機
楽な姿勢で、洗濯物の出し入れができるので、使いやすい。また、背の低い人でも楽に奥まで手がとどく
音響式の信号機
視覚に頼らなくても、音で情報が伝わるので、目の不自由な人だけでなく、すべての人が安全に道路を渡ることができる
床面を低くしたノンステップバス
足の不自由な人や高齢者でも乗り降りしやすい。同時に乳幼児連れの人や重い荷物を持った人の負担も軽減される
シンプルなイラストで表示された案内板
字を読めない子どもや外国人にもわかりやすい
すべての子がすごしやすく、わかりやすい環境が整っているか、もういちど見なおしてみましょう
ここで、周りが変わることで暮らしにくさが改善され、すごしやすくなる例として、「めがね」について考えてみます。
近視の程度が重い人でも、めがねがあれば支障なく生活することができ、障害のある人とは呼ばれません。しかし、めがねのない世界に行ったらどうでしょう?とたんに生活に大きく支障がでてきます。障害のある人と呼ばれるかもしれません。このように考えると、同じ人でも環境が変わることで、暮らしやすさが大きく変わることがわかります。
このことを、発達の気になる子どもに当てはめて考えてみましょう。どんな「めがね」を用意すれば、その子は暮らしやすくなるのでしょうか?
これまでの話のなかでも、子どもの視点に立って、その困難さの原因を「○○かもしれない」とあれこれ想像し、試してみることの大切さについて繰り返し述べてきましたが、それこそが、その子にとっての「めがね」をつくるプロセスになります。
例えば、人の話を理解することが難しい子がいたら、「周りの音が雑音になって話が聞き取れていないのかもしれない」「気が散って集中できていないのかもしれない」などと想像します。その仮定から、「静かな場所でゆっくり話をしてみよう」「気が散るものを、視界に入らない場所に移してみよう」と具体的に環境を変えて試してみる、これがその子にとっての「めがね」づくりといえるでしょう。
想像と試行錯誤を繰り返しながら、少しずつでも、発達が気になる子どものための「めがね」をつくっていきたいですね。
以下にすごしやすく、わかりやすい環境をつくるために必要な保育を見直す視点をまとめました。次年度の保育を考えるひとつの視点として再確認し、よりよい保育へとつなげていきましょう。
子どもがすごしやすい環境を整えていますか?
子どもが保育者の話や活動に集中できる環境をつくることと、子どもが理解しやすい視覚的な表示を充実させることが、わかりやすく、すごしやすい環境をつくるための第一歩になります。
例えば、保育者が話すときは、保育者の後ろに子どもの気を引くおもちゃや装飾品を置いたり、屋外が見える窓や人の行き来が見える廊下を背にしたりしないようにしましょう。また、おもちゃや文房具をしまう場所や自分のロッカーやくつ箱には、ひと目で何をしまう場所か、だれのロッカーかわかるように、絵やマークを表示しましょう。
見通しをもって、安心して生活できる配慮をしていますか?
何をするのかわからない、いつまで続くのかわからない、といった先の見通しがつかない状況は子どもを不安にさせ、落ち着かなくさせる原因になることもあります。一日の活動予定を絵カードなどで表示したり、ふだんの保育とは違う行事や活動があるときは、事前に内容を伝えておくなど、子どもが自分の活動や生活に見通しを持てるように十分な情報を提供しましょう。活動の流れがわかると、安心して活動に取り組めるようになります。
「伝わることば」で情報を伝えていますか?
いくら情報を提供しても、その情報が子どもに正しく伝わらなければ意味がありません。「状況を理解できていない」「伝えても理解が難しいようだ」と判断する前に、伝わることば、あるいは伝わる手段で伝えているか、もう一度振り返ってみましょう。
「話しことば」が唯一の伝達手段ではないので、ことばで伝わらないようなら、身振り手振りを添え、絵や写真、文字や実物を見せて伝える方法もあります。話す場合はゆっくり、大きな声で、ポイントをしぼって、など伝わりやすくわかりやすい話し方を心がけましょう。
発達障害のある子にとって、よりよい保育にするために
ひとりで抱え込まずに、周囲の保育者の力を借りましょう
子どもとのかかわり方がわからない、思うように保育が進まない・・・このような悩みを抱えている保育者はたくさんいます。ひとりで悩まないで、まず園のほかの保育者に相談してみましょう。話すだけでも気持ちが楽になります。また、担任とは違った視点からの保育のヒントをもらえるかもしれません。
「子どもが困っているかもしれない」という視点で自分の保育を見なおしてみましょう
子どもとうまくかかわれないつらさ、苦しさ・・・保育者が日々感じていることを、実は子どもも保育者に対して感じているかもしれません。「わたしも困っているけれど、あの子も困っているのかもしれない。自分の保育はあの子からどう見えているのだろう?」。これまでお話してきた、発達障害の特性から、もう一度振り返ってみましょう。
子どもの好きなこと、得意なことを探してみましょう
子どもとのかかわりに悩み始めると、どうしても子どもの気になる行動や困った行動に目を奪われてしまいます。しかし、どの子にも好きなこと、得意なことが必ずあります。そして、好きなこと、得意なことを保育者に知ってほしいと願っています。子どもとのかかわりにつまずいたときは、その子の好きなこと、得意なことを探してみましょう。きっと、関わりの糸口が見えてきます。