子どもが発達障害だと言われた保護者の気持ちにも配慮して、加配などの対応を。
初めて発達障害のある子のと保育に携わる保育者は、その関わりの難しさに直面し、とまどいや困難を感じることも多いでしょう。
子どものよりよい成長のために、発達障害のある子とどう向き合って保育にあたっていけばよいのか、考えていきましょう。
発達障害のある子どもへの関わりに、難しさやとまどい、悩みを抱えたら
発達障害のある子は、障害ならではの特性ゆえに、周囲から「手がかかる子」「こちらの思いが伝わりにくい子」「育てにくい子」などと思われてしまうことが少なくありません。
実際、発達障害のある子は、相手の気持ちを考えることや、自分の気持ちや行動をコントロールすることが苦手なため、集団生活のなかでは自分勝手、強引、わがままと思われてしまう行動が多くなりがちです。
また、人への関心が薄く関係を気づきにくいといた傾向もあるため、その対応の難しさにとまどったり、悩んでしまったりする保育者も少なくありません。
障害のあるなしに関わらず、その子に合った対応法の見つけ方はみな同じ
障害のあるなしに関わらず、すべての子どもは一人ひとり違う個性、異なる成長の課題を持っています。
ですから、それぞれの子に対してすぐに適切な支援のしかたや関わり方を見つけ出すことは難しいかもしれません。
しかし、どんな場合でも、必要なのは「こうやったらあの子はうまくいくかもしれない」「ここを手伝ったら最後までやれるかもしれない」と、日々の保育のなかで試行錯誤することです。
一見すると遠回りのようでもありますが、その繰り返しによって、子どもの個性や発達課題は必ず見つけることができます。難しく聞こえるようですが、こうしたプロセスは保育者が日々の保育のなかで自然と繰り返しおこなっていることでもあります。
発達障害のある子の場合は、定型発達の子と同じ対応ではうまくいかないこともあるため、保育者にとっては、より多くの時間と努力が必要になります。
しかし、保育者として、子どもに一番合った関わり方を見つけていくプロセスは、発達障害のある子に対しても変わるものではないでしょう。
時間はかかって当たり前です。すぐに解決するようなことなら、誰も苦労しません。
まずは子どもの特性と障害について、理解しようと努めましょう。
そのうえで、「どういう支援があれば、この子は困らずに生活(活動)できるのだろう」という視点から対応のしかたを探っていく姿勢をもつことが大切です。
障害への理解を深めることと、障害名にとらわれすぎることは違います
発達障害の子に関わる保育者は、まず子どもを理解しようとする姿勢が大切です。
もちろん、「発達障害」がどのような障害か、またどのような支援が必要で、どのような関わり方が有効なのかということを知識として身に付けることはとても重要で、それを知ることがよりよい対応のヒントを見つけ出すことへとつながります。
しかし、同じ診断名であっても、実際にあらわれる行動は一人ひとり違うので、当然、その子が必要としている支援やその子に合った関わり方もそれぞれ異なります。
「自閉症だから」「ADHDだから」といった固定的な見方をしすぎると、その子自身の本来の個性や力、あるいは成長の可能性を限定してしまいかねません。
「自閉症のAくん」「ADHDのBちゃん」ではなく、「友だちとあそぶのは苦手だけど、絵を描くのは得意なAくん」「集中して取り組むことは苦手だけど、友だちが大好きなBちゃん」というように、障害の特性だけがその子のすべてではなく、得意なことやよいところにも十分に目を向け、「その全体がその子なんだ」という視点を、保育者はつねに持っていたいですね。
発達障害の子がクラスにいる・・・とまどいや悩み
発達障害のある子、あるいはその可能性がある子の担任になった保育者は、さまざまな悩みが生じやすくなります。
次に紹介するものは、よく聞かれる保育者の悩みです。このような問題を担任が一人で解決することは難しく、かえって問題を複雑にしていまうこともあります。
まずは、周囲に相談しましょう。園全体で対応に取り組むことが、子どもにとってもよい結果を生むことになります。
勝ち負けにこだわって、トラブルメーカーになっている子どもへの対応
時間をかけて、勝ち負けには「負ける」こともあるということを理解させていくしかありません。
負けると癇癪になるからといって、つねにその子を負けないように配慮して勝たせるというのは、その子の成長のためにもよくありません。
友だちに手がでるということも悪いことなので、しっかりとしかります。
多動性と衝動性が強い子どもへの対応
子どもにもよりますが、多動性と衝動性が強い子の場合、もしかすると園そのものが、その子にとって向いていないのかもしれません。
その子の支援のために、保育者が新たに加わるということがなければ、なかなかクラスの活動をスムーズに進めていくのは難しいでしょう。
園内で検討し、場合によっては、転園をすすめることもありそうです。
保護者に発達障害の疑いを伝えたいときは
発達障害の可能性を感じたとしても、そのことをすぐに保護者に伝えるのは控えましょう。
保護者にとって、我が子が発達障害であるという内容の話は、非常にデリケートな問題です。
まずは園内で複数の保育者に、その子の言動をしっかりと見てもらい、発達障害の可能性があるのかどうか、きちんと検討しましょう。
そのうえで、発達障害の可能性があり、保護者に伝えるべきであるという結論に至ったのならば、その保護者と信頼関係を築いたうえで、発達障害の可能性について示唆してみるのもよいかもしれません。
保育園は療育をする場所ではない
保育園はあくまでも「園」なので、療育をしている児童発達支援センターのようにはできないことも、たくさんあるでしょう。
ただ、あからさまにそういったことをセンターの職員や保護者に伝えるのは避けたいものですね。
発達障害のある子に重点をおきすぎて、クラスのバランスが崩れてしまうのは、望ましいことではありません。
できそうなことを少しずつ園の生活にも取り入れつつ、園ならではの、センターよりも大きな集団での活動に重きをおいて、その子の成長を支えているということを、まずは保護者に理解してもらえるとよいですね。
保護者が園の方針を受け入れる(諦める)ことができれば、問題ないでしょう。
発達が気になる子への保育、4つの基本姿勢
子どもに向ける視点、保育を考える視点を少し変えることで、発達障害のある子との関わり方や関係に変化が持てるようになることもあります。
発達障害の診断のある子、あるいは、診断はないけれど発達が気になる子の保育にあたる際に、保育者が心がけておきたい4つの姿勢についてご紹介します。
マイナス面ばかりでなく、子どものプラス面にも積極的に目を向ける
集団生活のなかでは気になる行動が目につきやすく、「手がかかる」と感じることも少なくない発達障害のある子には、どうしてもそのマイナス面ばかりに目が向いてしまいがちです。
しかし、それでは子どもとよい関係を築くことはできません。
その子のよさは何だろうという視点をもって子どもと向き合う姿勢を大事にしましょう。
また、子どもの得意なことや好きなことに目を向けることも大切です。
子どものプラス面に目を向けることが、子どもとの関係を築くよい糸口になることもあります。
子どものと保育者の関係ができることで、子どもが保育者の指示や注意を受け入れやすくなるということもあります。
よいところをほめて伸ばす。自己肯定感を高める関わりを
発達障害のある子は、障害の特性ゆえに、失敗経験やしかられることが多く、自己肯定感が育ちにくい傾向があります。
そのため、情緒面の問題を抱えやすく、思春期以降に不登校などの適応困難や精神疾患など二次的な障害が起こることも少なくありません。
もちろん、いけないことはいけない、としっかりと教えることは必要ですが、子どもに「自分は否定ばかりされて、理解されない、受け入れてもらえない」という思いだけが積み重ならない配慮と対応が求められます。できたことや努力はおおいに褒め、子どもが「自分を認めてくれる人がいる」という安心感を持って園生活を遅れるようにしましょう。
園全体での対応、保護者や外部専門機関との連携を大切に
発達障害の診断のある子、あるいは、診断はないけれどちょっと気になる子の保育をするなかで、保育者はさまざまな「困った状況」に直面しますが、それを「自分の努力が足りなかったせい」と思いつめてしまう保育者は少なくありません。
しかし、子どもの育ちは保育者ひとりで支えるものではありません。担任ひとりで抱え込まずに、積極的に園長や周りの保育者に相談してみましょう。
また、保護者はもちろん、児童発達支援センターなどの外部専門機関と連携し、情報を交換、共有しながら多面的な支援をしていくことも必要です。
発達障害のある子への保育を考えることは、全体の保育を考えることにつながるという視点をもつ
発達障害のある子を保育するうえで、障害の特性を知り、適切な支援をすることは、保育者として必要不可欠な対応です。
一見すると、発達障害のある子への保育は、障害のない子への保育とかけはなれた特別なものであると感じるかもしれません。
しかし、発達障害のある子の困難さを軽減し、よりよい園生活を遅れるための支援を考えることは、実は、そのほかの子どもたちにとっても、わかりやすい保育、よりすごしやすい環境を整えることにつながります。
発達障害のある子に対する保育を「特別」ととらえてしまうと、どうしても重荷に感じてしまいがちです。
障害のある子のためだけの特別な対応ではなく、「すべての子」にとってのわかりやすい保育、すごしやすい環境を考える、という姿勢をもつことが大切です。