命を大切にする気持ちを育てる
幼児期の知的能力や知識からすると、まだ「命」や「死」について正しく理解することは難しいですが、それでも「命」の大切さや「死」の悲しさについて、伝えていくことは必要なことであり、また、とても大切なことです。
幼いころから、周囲の大人が「命」や「死」についてどのようなメッセージを伝え、そして、「命」について学べる体験を重ねられるよう導いていくかは、その後子どもが「命を大切にできる人間」になれるかどうかに大きく影響していくでしょう。
子どもは、生き物を育てるという体験や、絵本やテレビなどによって「生と死」についてある程度の知識を得ることができます。
しかし、子どもの知的能力からいえば、まだ十分に理解できるとはいえません。子どもが命を大切に考える土台になるのは、「自分が愛され、大切にされている存在だ」と思えること、自尊心を持つことができるでしょう。
乳幼児期に両親をはじめ、周囲の人からたくさんの愛情を注がれて育った子どもは、自分の命の存在は大切だと思い、自分に対して自信をもつことができます。このような思いが土台となって、他の人の命も同じように大切だと思えるようになっていきます。
5歳児を対象とした研究で、「自分は大切な存在か」という問いを5歳児にしてみたところ、「そうだ」と答えた理由として、「パパがそういっていた」「」ママがそういうから」という答えがかえってきたそうです。
「あなたは大切な子」と親がメッセージを送り続けることで、あるいは、あるがままの子どもを無条件に受け入れることで、子どもは「自分は大切な存在だ」と気づくことができるのです。
園で保育者が子どもに接する際にも、この無条件の受容はとても重要な要素となります。
幼児期の子どもに「命」の意味や大切さを伝えるには、「いかに自分は周りから愛され、大切にされている存在か」がわかるように無条件の愛情を注ぎ、その自尊心を育むことがとても大切です。
そして、この自尊心と飼育経験や生活から得た知識、体験がむすびつくことで、自分の命、そして他者の命を大切にできる子どもへと成長することができるのです。
子どもが死と向き合っているときの対応とは
子どもが「死」と向き合うとき、子どもから「死」についてたずねられたとき、保育者はどのように受け止め、答えるのがいいのでしょうか。
虫を平気で殺してしまう子どもはどうやって対応する?
虫を踏んだり、羽をむしるといった子どもの行為は、大人の目には残虐に映ることもありますね。
しかし、こういった行為は虫に対する興味、関心の延長線上にあるものです。多くは「殺してやろう」という思いからではなく、「踏んだら、どうなるの?」「羽ってどうなっているの?」という気持ちからくる行為です。
ですから、「そんなことをしちゃダメ!」と頭から否定するのではなく、まずは虫を殺すという行為が子どもの興味、関心によるものだということを受け止めましょう。
そのうえで、「動かなくなっちゃったね。死んじゃうと動かなくなっちゃうんだね」「死んでしまうと、かわいそうだね」「羽を取ると飛べなくなっちゃうね。今度は羽を取らないままで、逃がしてあげようね」と、殺すことはよくないというメッセージを伝えることが大切です。
虫をつぶすときの嫌な感触や、つぶれた虫の姿を見る心地悪さを感じるのも、死を学ぶ経験につながります。
また、子どもが虫に関心を示しているなら、飼育し育てることに興味を向けていけるとよいですね。
そうすることで、むやみに虫を殺すこともなくなっていくでしょう。